スプリンターズS
相馬眼予想

中山は雨、芝ダートとも稍重。雨は降り続く予報で馬場は悪化しそう。馬場がどのレベルまで悪化するのか、前が残るのか、差しが決まるのか、内をロスなく回った方が有利なのか、外から揉まれずにスムーズに回った方がいいのかは分からない。当日のレース、特に直前のレースを見て判断したいところだが、例え有利な傾向があったとしても、各騎手がそれを意識すれば、逆の結果になることもあり得る。ただし重馬場は差し馬の切れ味を削ぐため、基本的には前に行った方が有利。馬場が悪化すればするほど重の巧拙がポイントになりそうだ。

1986年以降、渋った馬場で行われたスプリンターズSは2回あるが、いずれも逃げた馬が勝っている。00年は稍重でダイタクヤマト(16人気、8枠15番)が逃げ切り、2着に5番手を進んだアグネスワールド(1人気、5枠9番)、04年は不良でカルストンライトオ(5人気、3枠5番)が逃げ切り、2着に最後方から追い込んだデュランダル(2人気、1枠1番)。昨年は良発表も小雨で馬場は渋っておりテイクオーバーターゲット(1人気、7枠13番)が逃げ切り、2着に4番手を進んだメイショウボーラー(10人気、2枠4番)でやはり逃げた馬が勝っている。2着のアグネスワールド、デュランダル、メイショウボーラーは脚質は違うが、みなG1馬だった。

これまでのスプリンターズSの歴史は雨で馬場が渋ったら逃げ馬と伝えている。ダイタクヤマトはシンガリ人気で勝ったが、次走スワンSでは59キロを背負って3番手から抜け出して勝ち、翌年のスプリンターズSでも3着したようにスプリターズSの逃げ切りはフロックではなかった。カルストンライトオはアイビスSDを連覇したスプリンターで直前のアイビスSDは3馬身差で圧勝していた。テイクオーバーターゲットは豪G1馬で英国のスプリント戦で世界の一線級を相手に好勝負していた。逃げ馬が勝っているといっても弱い馬が勝っているのではない。スプリントG1を勝てる能力がある馬が逃げて勝っているのである。

渋った馬場が得意なのは、スズカフェニックス、オレハマッテルゼ、サンアディユ、ローエングリン。スズカフェニックスは重巧者で重馬場の高松宮記念を勝っている。今回は1分7秒台前半の高速決着が課題だったが、雨で時計が掛かるという点でプラスになりそう。揉まれない外枠もいいのではないか。オレハマッテルゼは渋った馬場[5-1-2-1]の重巧者。前走は不甲斐なかったが、重馬場で息を吹き返す可能性がある。ただしベストは左回り。サンアディユは重馬場のアイビスSDで中団からメンバー最速タイの32.9秒で上がって勝っている。元々ダートで走っていたし、フレンチデピュティ産駒は渋った馬場に強い。

ローエングリンは単純に重巧者。ただし1400m以下では馬券圏内がない。無欲の追い込みに賭けて嵌ればといったところか。アイルラヴァゲインはスピードを生かせる良馬場の方がいいが、渋った馬場もそこそここなす。プリサイスマシーンは重の高松宮記念3着したが、プラスではない。アグネスラズベリは道悪は空っ下手だったが、最近はこなしている。タマモホットプレイは空っ下手。アストンマーチャンは渋った馬場の経験はないが、ピッチ走法でこなせる可能性が高い。

エムオーウイナーは得意ではないが、それなりにこなす。アンバージャックは結果が出ていないが、そもそもまじめに走るかに不安がある。コイウタはヴィクトリアMを勝ったように良馬場の方がいいが、稍重の菜の花賞を勝ったように極端に悪化しなければこなす。ペールギュントは重の高松宮記念2着だが、馬場が悪化したCBC賞では6着。58キロだったこともあるが、微妙なところ。メイショウボーラーは重のフェニックス賞を勝ち、昨年のスプリンターズS2着とこなせる。クーヴェルチュールは重のアイビスSD3着でこなせるが、ベストは良馬場。最近は非力な面が解消されたが、急坂のある中山で重馬場は課題。

キングストレイルは渋った馬場の経験がなく未知数。中山向きの体型でパワーのある馬。それなりにこなすのではないか。まとめるとスズカフェニックス、オレハマッテルゼ、サンアディユ、ローエングリンにはプラス、アストンマーチャンはピッチ走法でこなし、コイウタは極端に悪化しなければこなすといったところ。日曜中山1Rの芝1200m(2歳未勝利)は1分11秒3で上がり3Fは37.5秒と時計が掛かっている。1、2着馬は3、4番手から抜け出した。重の巧拙も重要なファクターだが、基本的にはスプリントG1を勝つ能力があるかどうかを重視したい。底力のある馬は多少のマイナスは覆せるとデュランダルが教えてくれた。

近年のスプリント戦線は低レベルのレースが続いており、スプリンターズSは2年連続で外国馬が制した。今年は馬インフルエンザの影響で外国馬の参戦はない。その点で例年よりメンバーのレベルは低い。今年のスプリント重賞でレベルの高い走りをしたのは、高松宮記念を勝ったスズカフェニックスとセントウルSを勝ったサンアディユの2頭のみ。この2頭はスプリンターズSを勝てる能力を持っており、道悪もこなせる。あとはヴィクトリアMを勝ったコイウタ。能力のあるアサヒライジングを完封し、5着のジョリーダンスは安田記念で3着、7着のアドマイヤキッスは同4着に善戦したのだから、牝馬限定G1でも高評価する必要がある。

もうひとつ考慮しないといけないのは、今年は出走馬16頭のうち8頭が休み明けで馬インフルエンザの影響で帰厩が遅れた馬が多いこと。スズカフェニックスは馬体がガレて帰ってきたようで陣営は馬体を気にしながら急ピッチに乗り込んで仕上げている。G1は狙って獲るものだけにこの調整過程がどうなのかの疑問は残る。コイウタも帰厩が遅かったが、休み明けの馬の中でこの馬だけは馬インフルエンザの影響で遅れたのではなく当初の予定通り。実際、最終調教の動き、気配は良く、陣営は仕上がりに自信を持っている。海外遠征明けでも、これは評価するべきだろう。

最もローテーションがいいのは、アストンマーチャン。桜花賞が終わった時点でスプリンターズに狙いを定め、北九州記念をひと叩きし臨んできた。最終調教の動きは素晴らしく万全の仕上がり。馬体減、イレ込みなどなければ力は出せる。サンアディユはサマースプリントシリーズを優勝し、アイビスSDから4戦目になるが、状態面はキープできている。ただし上積みという点ではアストンマーチャンの方が上。キングストレイルは休み明けの京成杯AHを勝ち、さらに調子を上げている。今回の出走はおそらく既定路線で力を出せるデキにある。クーヴェルチュールは使い込んでいるが、調教の動きは良かった。我慢できるのではないか。

これ以外で休み明けでない馬はいずれもセントウルSに出走した馬でサンアディユに惨敗だった。決定的な5馬身差を覆せるような馬は見当たらないし、最終調教を見る限り一変した馬もいない。まとめるとアストンマーチャン、キングストレイルは仕上がりが良く、サンアディユ、クーヴェルチュールは状態面をキープできており、コイウタは帰厩が遅いのは予定通りで仕上がりはいいということになる。今年のスプリンターズSは例年以上に調子の良さが問われるのではないだろうか。秋の重賞戦線を見ても帰厩が遅れた馬は最終調教で動きが目立った馬以外不振に終わっている。調子のいい馬を重視したい。

次に展開だが、逃げるのはアストンマーチャンかエムオーウイナー。池添騎手はスプリンターズSでデュランダルに騎乗して苦しい競馬をさせられているので、ハイペースで飛ばしてアストンマーチャンの前に立ちはだかる可能性がある。テレビ愛知オープンでは前半3F32.4秒のハイペースで逃げている。アストンマーチャンは小倉2歳S、ファンタージーSのように好位からの競馬もできる。エムオーウイナーがハナを主張すれば2番手から自分のペースで行くのだろう。サンアディユは前半3F32秒台(重なら33秒台)で行くと終いが甘くなるので、そのペースに引き込みたいところ。要は自分の舞台にサンアディユを乗せるといったイメージ。隣枠なのも好都合。

サンアディユは回りの出方と川田騎手の判断次第。おそらく好位からアストンマーチャンをマークして最後に交わす競馬をイメージしているのではないか。アストンマーチャンより末脚は切れるという自信があるはずだ。好位にアイルラヴァゲイン、クーヴェルチュール、中団にコウイタ、プリサイスマシーン、キングストレイル、後方からスズカフェニックス、ペールギュント、ローエングリンといった展開。流れは馬場の悪化具合にもよるが、おそらく33秒台のハイペース。勝ちタイムは1分8秒台中盤あたりが想定されるが、馬場が悪化すれば1分9秒台に落ちそうだ。ハイペースで激しいレースになれば、G1を勝てる底力のある馬が最後に上位に来るはずだ。

相馬眼的評価、仕上がり、スプリント能力、馬場状態など総合的に判断して狙いたいのはアストンマーチャン。古馬の一線級相手に通用する保障はないが、これまで見せたパフォーマンスからスプリントG1を勝つ能力があると判断した。G1は狙って獲るもの。このレースを目標に万全の仕上がりで臨んできたことも強調したい。馬場が渋ったスプリンターズSで逃げた馬(途中から先頭に立った馬を含む)が勝っていることも心強い。石坂厩舎は00年のスプリンターズSをダイタクヤマトで勝っている。00年以降の芝1200mで中舘騎手は逃げると[8-2-0-12]で勝率36.4%、連対率45.5%。スピード勝負に持ち込みたい。

対抗はサンアディユ。セントウルSの圧勝はラップを分析しても素晴らしく、G1で好走できるレベルにパフォーマンスは引き上げられている。フレンチデピュティ産駒で渋った馬場もプラス。アストンマーチャンを追いかけ過ぎず、自分の競馬に徹すれば好勝負になるはずだ。アイビスSDで出遅れたようにゲートで固まることのある馬。今日の馬場で出遅れたら致命的。まずは川田騎手がスタートを決められるかが鍵。

[Home]