秋華賞
レース展望(2)

アドマイヤグルーヴの母は天皇賞(秋)勝ち、ジャパンCで2回2着した女傑エアグルーヴ。父は昨年亡くなったサンデーサイレンス。2000年のセレクトセールで2億3000万円で取引された超良血馬がアドマイヤグルーヴだ。1番人気に支持された桜花賞は出遅れて後方から追い込んで3着。母子3代オークス制覇がかかったオークスでも1番人気に支持されたが、ゲートが開く寸前にパニック状態になり大きく出遅れて7着に敗れた。最高の舞台で最悪のレース内容。アドマイヤグルーヴ陣営にとってオークスほど屈辱的なレースはなかっただろう。

競馬ファンの誰もが期待した母子3代オークス制覇。エアグルーヴの子供は今後も出てくるだろうが、大きなチャンスを逃したということは確かだろう。ただアドマイヤグルーヴの前脚の爪には裂蹄防止テープが巻かれ、桜花賞で10キロ減った馬体を回復させるということと合わせて軽めの調整に終始した。今になって武豊騎手が口を開く、「春はいい状態ではなかった」。雪辱の秋、アドマイヤグルーヴの逆襲が始まった。

ローズSは1番人気の座をスティルインラブに明け渡し、初めての2番人気。レースでは出遅れ気味のスタートだったが、すぐに挽回して5番手につけた。直線では各馬が追い出すのを待ってひと呼吸入れてから一気に追い出すと解き放たれた矢のように一気に伸びて逃げたヤマカツリリーに迫る。並ぶ間もなく差し切るとゴールでは1馬身差をつけていた。アドマイヤグルーヴ完全復活。最後の1冠に向けての望みをつないだ。

アドマイヤグルーヴの坂路調教の動きはあまり良く見えないが、見た目以上に速いタイムが出るのが特徴。速く見えないのに速いタイムが出るというのは走る馬に共通するもの。相馬眼的に馬体に一本芯が通ればもっと強調できるが、現時点でこれだけの切れ味を使うのだから恐れ入る。今後の成長次第で牡馬と戦える馬になる可能性を秘めているが、問題はやはり精神面か。ただ桜花賞まではそれほど精神面に問題があるように見えなかった。

オークスの悪いイメージが強いが、それほど精神面に問題があるとは思えない。アドマイヤグルーヴに限らず、武豊騎手が重賞で単勝1倍台の断然人気馬に騎乗すると出遅れが多いような気がする。菊花賞のノーリーズン落馬の後遺症がまだあるのか。馬は人間が緊張すると微妙な動作を察知すると言われる。今回はスタンド前からの発走。昨年は精神面が強いと言われたシャイニンルビーがパニック状態になってシンガリ負けを喫した。大観衆の声援が馬を狂わせる。アドマイヤグルーヴがパニック状態になればその時点で終わりだ。ただそれを予想の大きなファクターにはしたくはない。

武豊騎手は今回アドマイヤグルーヴが80%以上の確率で出遅れるとマスコミに話したようだ。少しの出遅れは最初から考慮しているにしても、京都内回り2000mは流れが遅くなると追い込みは決まりにくい。フルゲートの18頭でごちゃつくので01年のローズバドようにぽっかり空いた内を突いて追い込むということはかなり稀なことだ。それだけにある程度流れが速くなって欲しいというのが陣営の願いだろう。

そういう点で器用さのあるスティルインラブの方が確度が高いように思えるが、切れ味ではアドマイヤグルーヴの方が上。スティルインラヴは走りのストライドが小さいが(だから器用さがある)、アドマイヤグルーヴのストライドはかなり大きい。ただアドマイヤグルーヴは加速するまでに少し時間がかかる。エンジンがかかってからの伸び脚はおそらくメンバー中1番だろう。そのアドマイヤグルーヴの持ち味を武豊騎手がいかに引き出すかが最大のポイントになる。

菊花賞でエアシャカールを勝たせたときには100通りの乗り方をシミュレーションしたという武豊騎手。果たして今回は何通りの乗り方をシミュレーションしてくるのだろうか。ただ菊花賞は長距離である程度道中で修正する余裕はあるが、今回は京都内回りの2000m。しかも出遅れがあるとしたら対処しきれるのかどうかは微妙だ。おそらくペースによっては対処しきれないケースが分かっているのだろう。ただ5枠10番というのはかなりいい枠を引いた。外の偶数枠を引いたことで出遅れる確率は少なくなるし、出遅れた場合でもすぐに内に入れるなど対処がしやすい。

京都内回り2000mということを考えた場合に器用さのあるスティルインラブの方が有利に思えるが、スティルインラブが乱ペースに巻き込まれるようだと後方でじっくり脚を溜めるアドマイヤグルーヴが有利になる。2頭とも秋華賞を勝てる力があることは間違いない。京都の内回りコースという設定が予想を難しくする。昨年の天皇賞(秋)はシンボリクリスエスがこれまで見せたことのないようなスタートダッシュを決めてレースを制した。アドマイヤグルーヴと武豊騎手が最高のレースをしたとき、スティルインラブの3冠制覇に大きく立ちはだかるはずだ。

[Home]